研究概要はじめにプラズマ物理にまつわる諸現象に関心を持っており, これらの現象を忠実に反映した問題を定式化するとともに, それらを厳密な数学解析を通して解明することを目標としています. 主に,プラズマ境界層,放電発生の基礎過程,半導体デバイス中の電子流などを解析しています. 以下,研究課題ごとに詳細を紹介します.プラズマ境界層プラズマとは電子と正イオンから構成される気体の一種です. プラズマが接触する固定壁付近には境界層 (シース, sheath) が形成されます. 詳述すれば,プラズマが壁に接触するとき, プラズマ中の電子と正イオンは壁に流れ込むが, 電子は正イオンに比べて遥かに軽く動きやすいため,過剰に吸収されます. すなわち,壁の付近では電子密度は正イオン密度より急激に減少し, 壁とプラズマの間に電気的な偏りが生じます. この偏りが生じた領域がシースです. シースの厚みはDebye長 (プラズマ中に荷電粒子をおいたとき, 荷電粒子から生じる電場が遮蔽される距離) の数倍程度になります. プラズマ物理学では,流体力学的モデルであるEuler--Poisson方程式や, 気体分子運動論的モデルであるVlasov--Poisson方程式から, シースが形成されるための条件が導かれてます. この条件は,Bohm条件と呼ばれています.シースに関する数学理論の構築を目指しており,とくに,Bohm条件とシースの厚みに着目し, それらが固定壁の形状に応じて,どう変化するかを解析しています. 詳しい研究成果に興味がある方は,数学会のアブストラクト (pdf) をご覧下さい. 放電発生の基礎過程絶縁体である空気などの気体中に,一対の電極をおき徐々に電圧を上げていくと, 突然,絶縁の状態から伝導の状態にかわり大電流が流れます. これが放電であり,放電の経路に沿ってプラズマが発生します. 1900年頃,Townshendは物理実験を通して, 放電発生のためには二つのメカニズムが不可欠であることを発見しています. 一つは,電子が中性分子と衝突して電離を促し, 新たに自由電子と正イオンを発生させるαメカニズム, もう一つは,正イオンが負に帯電した電極に衝突して, 電極から自由電子を放出させるγメカニズムです. 彼は,これらのメカニズムを基盤として, 放電が発生し持続するための電圧の閾値 (火花電圧) を導出しています. ただし,火花電圧の導出過程において,時間を離散化させる, 電子や正イオンが持つ電荷による電場の変化を無視するなど, 大胆な簡略化が行われています.近年では,Morrowが放電を記述するモデル方程式を提案し,広く数値実験に利用されています. このモデル方程式によって放電理論を再構築することは,好奇心をそそられる学術的問いであり, とくに,火花電圧の再導出に興味を持っています. 詳しい研究成果に興味がある方は,数学会のアブストラクト1 (pdf) ,数学会のアブストラクト2 (pdf) ,数学会のアブストラクト3 (pdf) をご覧下さい。 半導体デバイス中の電子流効率的な半導体デバイスの設計のため様々なモデル方程式が提案され, 数値解析によるシミュレーションに幅広く利用されています. その中でも,Hydrodynamic model(HDモデル), Heat-conductive hydrodynamic model(HHDモデル), Energy-transport model(ETモデル), Drift-diffusion model(DDモデル)などが 代表的なモデルとして知られています. 実際の設計では,デバイスの使用用途により, これらのモデルを使い分けて数値解析が行われており, モデル方程式間の関係(階層構造)の解明は数学的に興味深いだけでなく, 工学的にも重要な問題といえます. 階層構造は,モデルに含まれる物理パラメータを 形式的に零とする極限によって理解することができます. 例えば,HHDモデルに含まれるモーメント緩和時間と呼ばれる物理パラメータを形式的に零に近づけるとETモデルが得られ, さらにエネルギー緩和時間を零とすればDDモデルが得られます. この極限操作は緩和極限と呼ばれています.これまでの研究では,階層構造の解明を目的として,これらの緩和極限を数学的に正当化しました. 詳しい研究成果に興味がある方は,数理解析研究所講究録 (Vol.1701) をご覧下さい. |